先日ちょっとだけ書いて、日本のお友達から「なにそれ、大丈夫?」と心配の声をかけていただいた、私の交通事故についてお話しよう。
あれは2ヶ月前、ゴルフの帰りだった。いつものように日曜日のゴルフでは運転手は使わず、自分で運転していて、同乗者なしだった。ゴルフは散々な結果に終わり、ワレながら上達しないゴルフの腕前に落胆しつつ、帰路を急いでいた。ゴルフ場から一般道を20分ほど走り、高速に乗る入り口に向かった。そこは、本来一般の人が使う高速入り口ではなく、トラックターミナルの中にある入り口と出口が隣接し、しかも入り口、出口の周りは道のない広場のようなある種無秩序な業務用入り口のようなもので、きわめてわかりにくい出入り口であった。しかしそこから入るとかなり近道になるため、いつも利用していた。そしてその日もいつものごとく、その高速入り口に入るためぐるっとUターンをし、入路に向かった。そのとき、入路に隣接する出口に向こうから大型トレーラーが近づくのが見えた。私は右側の入り口に左方向から入る体制となっていた。出る車はほとんど出てきて左側に回る。すなわち、私はそのトレーラーを左に見つつ、右側へ、トレーラーは私から離れるように左側に回っていく、という...はずだった。
だんだん近づいてくるトレーラーを左前方に確認しつつ、私は右に向かった。あれ、あいつちょっと早いぞ、あれ、こっちに向かってくるぞ、あれあれ、どでかい音でホーンを鳴らしてるぞ、ああ、近づく、あ、あ、右に来る、あ、あ、ぶつかる、あ、ブレーキか、アクセルか、どっちだ、でも、まっすぐ行くと歩道に乗り上げるぞ、でも、ここでとまると真正面にくるぞ、逃げだ、逃げろ、アクセルだ、歩道の縁石なんか乗り越えろ、死ぬぞ、お、お、もうぶつかる、アクセル全開だ、いけ、逃げ切れ、だめだ、来た、死ぬ、おれはついに死ぬのか、かーちゃん、ごめん、片親でも息子をぐれずに育ててくれ、息子よ、元気でな、とーちゃんは先に行くぞ、すまん。あ、あ、あ、あ、キターーーーーーっっっ!!!
ドッガーーン(激突音)。ガシャガシャ(ガラス破裂音)。バラバラバラ(ガラス飛散音)。ストン(とまって静寂)。ジーーカタ(DVDモニター自動収納音)。
死んだ。死、死、あれ、死んでねぇぞ?助かったか。助かった。でも入院か。会社休むのか。かーちゃんの日本帰省、延期か。骨折かぁ。どこを怪我した?どこ、ど、あれ、あんまり痛くないぞ。あ、血だ、血だ、腕、腕、ガラスの粉々破片がこんなに腕に。取らなきゃ。パラリ、パラリ(ガラスを払い落とす音)。あれ、深く刺さってないな。血も大したことないな。腕はOKか。首や腰はいかんだろう。それよりなんだこのひざの上に飛んできたのは?はぁ、ドアミラーか。左ドア直撃でぶっ飛んできたか。それより首、腰、ん、どっちも大丈夫みたいだな。そうだ、エアバッグ、エア、あれ、開いてないじゃんか、この一大事に。使えねぇなぁ、まったく。正面衝突じゃないと開かないのかよ、これは。せっかく初めてエアバッグを経験できると思ったのによ。足はどうだ、足、ついてるか。ほぅ、動きますな。ぶつけてませんなぁ。うーむ。
ということは、つまり、ワシは元気か?助かったのか?死ななかったのか?このすんげぇ衝撃の中で?でも、車グチャグチャだぞ、おい。左のドア、助手席の半分くらいまでめり込んできてるぞ。自走して帰れんのかって、んなわけねーだろ。おいおい、トレーラーの運ちゃん出てきて怒鳴り散らしてるよ、何だよ、こっちは死にかかって、無事でほっとして呆然としてるのに何で怒鳴ってんだよ、だいたいおめーが左にいかねえからこんなことになってんだろうよ。なんでおこってんだよ、このおっさんはよぉ。そっちはどでかいトレーラーなんだから怪我なんかしてねぇだろ。こっちは、こっちは、おめぇ、まぁ、その、たまたまピンピンしてるけどよぉ。気を使え、気を。大丈夫ですか、くらい言うのが普通だろうによ。これだから大型トレーラーの運ちゃんは柄が悪い、って思われるんだよ。どっちが悪いとか今、議論させるなよ。こっちは今奇跡の生還の余韻に酔いしれたい、心地よい生きる喜び、幸せにゆっくり浸りたいんだよ。うるせえなぁ。わかったよ。降りるよ。ちょっと待てよ、ガラス前面割れてて破片にまみれてんだからよ。ゆっくり振り払って降りなきゃ手を切っちゃうだろ。見ろよ、ばらばらだろ。血もほら、こことここ、蚊に刺されたあと見たいだけど、これ、ガラスがちょっとささったんだかんな。見た目はそうでもないだろうが、ちょっとは痛いんだかんな。それと、興奮してるからいま、痛みを感じないんだろうけど、きっとこれからあちこち痛くなるんだからな。もっとやさしくしろ。おっさんよぉ。ところで、ぶつかった直後に何で、DVDモニターが「お疲れ様でしたー」みたいに平然とジーーカタと収納されていくんだよ、死にかかった人間を小ばかにすんなよ、おっさんもモニターも。
と、事故の時の心理状態を実況中継すると、このようなものでした。
おかげさまで、悪運の強い私は、しばらくたってもどこも痛みはなく、体は無事、ということで、後は事故処理のため、保険屋と警察を待つことになりました。ここまではよかったのですが(よくねーよ!)そこから大変でした。双方の保険屋が事故現場に来るのに約3時間、そして警察が現場検証にきたのがその2時間後、計5時間アスファルトの上で待たされたのです。事故が昼の1時でしたから暑いです。座るところがないので、地べたに座るしかありません。この待ち時間の退屈と苛立ちを紛らす救いは、どこから来たか野次馬が5-6名、トラックターミナルの管理人らしきはだしのおっさん、なぜか卓球ラケットを持つ少年、ホモダチっぽい関係の2人の男たち、自転車で通りすがりの兄ちゃんら、それぞれキャラのたった人々がトレーラー運ちゃんと談笑したり、私にコーラなぞ買ってくれたりして、7-8人でアスファルトに座ったり立ったりしながら5時間を過ごしたのです。今考えるとそれがまずかった。
事故の衝撃には無傷だった私も5時間アスファルトの上に座っていると、ビテイ骨が痛くなった。時々立ったりねっころがったりしたのだが、やはり座る時間が長かった。このビテイ骨の痛みは今も続いており、病院に2-3週ごとに行ったのだが、毎回、これは事故のせいじゃなく、硬いところに座りすぎ、ビテイ骨のこの種の痛みは2ヶ月は治りません。あまり触らぬよう、ほっとくしかないです。手術も不要ですので、2ヵ月立ったらまたいらして下さい、お大事に。と3人の医者に同じことを言われた。2ヶ月たっても直らないようだったら、治療しましょう、ステロイドを注射します、と先生。ほう、ステロイドか、これもなかなか経験できないな。めちゃくちゃビテイ骨がつよくなって、オリンピックとか出れるかな。エアバッグ体験を逃したからには、せめてステロイド体験ぐらいしたいな。せっかく死ぬかと思う事故にあったんだし。
ところで、車の方は、保険屋が全損にはせず、是非修理する、といってきかず、全治2ヶ月の大修理に入っている。いまだ届かない。写真は修理中の私の愛車。丸裸状態、左側なしの状態です。これが当地のサービスマンにきちんと復元できると信じるほど私はアホではないが、保険屋とディーラーががんと、新車交換をしてくれないので、あきらめるしかない。
私のビテイ骨と愛車とどちらが先に完治するか、悲しい戦いはまだ続いている。
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