つい、この間、パットさん、よろしくね、なんちゃって、いい気になってのんきに書いちゃったりしたけど、実は今はもうパットさんはいないのだ。2月になる前に行ってしまった。
大好評だったパットさんが結局ウチの運転手ストーリーのなかで最短記録となってしまった。3週間経たないうちに辞めてしまった。しかもいつもどおりの前日告知。「だんなさん、すみません、明日から辞めたいんです。ドライバー派遣会社にはもう伝えたので、明日から代理のドライバーがきますからご心配なく。ほんま、すんません…。」
どえーーーー。君もかよーーー。なんでだよーーー。勘弁してくれよーーー。とやたら長音が続いてしまった。本当にショックだった。さすがに昨今慣れてきたが、まさにばら色の光が差し込んで、これからなにもかもがうまくいく、と思ってしまっていた矢先だった。不覚だった。
パットさんは物腰柔らかくいつも低姿勢なので、結構叱り易いタイプだ。そこにつけこんでこれまでの運転手たちへの恨みもこめて問い詰めてしまった。まず、退職の理由を問い詰めた。すると給料の低さだという。残業の少なさが致命的だとのことだ。やっぱり、それなのか、そうかそうか。でも、2月から会社の費用で残業代が払えるようになったのだから、もう少し我慢していれば、給料は上がったはずなのにとの説明はむなしいので、言うのはやめた。とにかく、明日から来てくれという会社があり、その会社に運転手として正社員採用される、とのことで、もう断れないという。先方が運転手がいないので明日から来てくれないと困る、といっているらしい。じゃぁ、こっちはこまってもいいのかよ、このヤロ、というと、明日から代理が来るから困らないでしょう、と言いたげだが、下を向いて、ほんますんません、といった。
給料についてはかれらの言い分もわかる。派遣ドライバーだとたしかに社員ドライバーより派遣会社にコミッションを取られる分、ドライバー自身の基本給は2割くらい低いのだ。それを運のいいドライバーはがっぽり残業して、人並みの給料になっていて、続けられるのだ。これまでの私のように残業代をケチって夕方先に車を置いて運転手を歩いて帰しているようなヒトに当たると、ほんとうに安月給になってしまう。それは道理だ。だから私のところには運転手が居つかないのだ。そうだよ、そうだよ、どうせわしはケチケチ大王だよ。
それで、パットさんをこれ以上いじめてもかわいそうなので、もう彼を責めるのはやめ、ただ、最後っ屁のように、もっと早く安月給のことをわたしに言ってくれたら来月から残業を多くして、十分な給料をあげられたのに、次を決めたあとに言い出すから損するんだよ、そんな姿勢では次の会社も長続きしないよ、前広にボスに相談しないとね、と最後に恨み言をいって帰した。
それから私は猛烈に派遣会社のチーママ営業に文句を言った。お宅の派遣ドライバーはなんでこうも短期間で退社するのか、しかも突然やめる日まで言ってこないのか。どういう教育をしているんだ。といつもは優しい私もいささかキレ気味に抗議した。チーママは平謝りだったのだが、さすがにチーママらしく、客に言われっぱなしではなかった。突然の退職は本当に申し訳ないが、ドライバーがいつかない理由はひとえに、お客様の残業代のケチりにございます。ドライバーは残業が命です。1月100時間を越える運転手は誰一人、職を変えようとはしません。まことに残念なのですが、お客様のような残業の少ない方には運転手は派遣を嫌がるのは事実なのでございます。大変な失礼とは承知しておりますがそれが事実なのであるといわざるを得ません…。本当に申し訳ございません。次にまたいい子、いやいい運転手をすぐに連れてまいりますのでなにとぞご容赦を。
そしてしばらく、チーママと対策を練った。残業代を増やさない限り長続きしない、というのであれば、うちの運転手は始終入れ替わるしかないのか。何か手はないのか。絶対やめない運転手はいないのか。夜遅くなったときには帰りのタクシー代をあげる、とか効果の薄そうな対策しかなく、結局残業を増やすのが唯一の生き残る道、ということであった。
しかたないな、これから月のドライバー目標残業時間100時間をめざし、しっかり夜や日曜まで惜しみなく使ってあげよう。会社が払ってくれることになったのだ。良心は痛むが家計は痛まないのだから、会社に申し訳ないが、がんばって残業代を増やしてあげよう。
ということで、次の6代目ドライバー、Junさんが来た。もう書くのも疲れてきたので、彼の人となりはひとこと、そこらにいそうなタイ人、というだけにしておこう。ただし、すごい違いがひとつある。
彼は33歳なのに17歳の娘がいる、とのことだ。こりゃまたどうして、と聞くと、いやただ早く生まれただけだ、とのことだ。養子とか再婚でもないらしい。この16歳でパパになったと思われるJunさんは2月からちゃんと働いてくれている。初日からずっと20時より前に帰したことはない。すでに1週間で26時間の残業だ。明日からお客さんが来るので、1日7時間残業の日々がちょっと続く。いいペースだ。目指せ100時間。うちの4歳の息子と彼の17歳の娘のために!
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